無責任がまかり通る社会に一石を投じて欲しかった人にとって、主人公・加山聡の突然の追及撤退には落胆を感じさせられたことでしょう。
テレビ朝日のスペシャルドラマ「乱反射」の結末のシーンは、妻夫木聡さんや井上真央さんをはじめ出演者の演技が良かっただけに少し残念な終わり方だったと思います。
では、ドラマ「乱反射」の感想とネタバレをまとめていきます。
ドラマ「乱反射」の感想
まず最初に「乱反射」というタイトルがはどういう意味だろうと感じた人は多かったと思います。
ドラマの後半で、聡の2歳の息子の死を悲しむ気持ちが、事故に少しでも関わりのある人に対し手当たり次第に炸裂してゆきます。
その行動が「乱反射」という言葉の響きとマッチしていました。
主人公・加山聡の2歳になる息子が、母の光恵の押すベビーカーごと倒れてきた街路樹の下敷きになり亡くなるという痛ましい事故が起こります。
それを後から知った造園業者の従業員は、聡の会社を訪れて自分は極度な潔癖症で街路樹の根元に放置されていた犬の糞を理由に倒れた樹の検査を怠ったと白状し、事故の責任は自分にあると認めます。
しかし、聡は事故の原因を作った人間はまだいると考えます。
・犬の糞が倒れた街路樹の根元に堆積していることを知っていて放置した市の職員
・危篤状態の救急患者の診察を責任を回避したくて拒否した医師
を訪ね歩き謝罪を求めますが、その誰もが聡の2歳の息子の死には「自分とは関係がない。」と責任を認めません。
この時「大勢の無責任な行動や判断が、2歳の幼児を殺した」とドラマの中で聡が言っているのと同じ様に、誰もが怒りを感じさせられます。
加山聡(妻夫木聡)と久米川治昭(三浦貴大)が、雨の中での罵り合うシーンの演技が唯一胸に迫るものがありました。
酒を飲んでいる聡は殺気立っていて、当直医の久米川の胸を掴んでしぼりあげ、診察を拒否したことを責めますが、久米川は風邪程度の病気で夜間診療を受けにくる若者たちに責任転嫁します。
どこまで追及しても相手は自分の非を認めようとしません。
最期に雨の降る路上に仰向けになって寝る聡の脇を、久米川が乗る車が逃げるように去ってゆきます。
これで聡の追及は幕を閉じてしまいます。
ネタバレ!事故の本当の原因は?
しかし、ここで肝心の加山聡自身が、息子の死の原因を作っていることが忘れられているのです。
それから、ラストシーンで聡と光恵は再び高速道路のサービスエリアでゴミを捨てるシーンがありますが、「家庭ごみ禁止」の表示が半分しか映らず聡も表情を変えていても何も語っていません。
誰にでも心当たりのある小さな罪が回りまわって、人の命に関わることもあり、聡も加害者だったのかの知れないと原作者は言いたいのでしょう。
そこを原作では、聡が家庭ごみを高速道路のサービスエリアのゴミ箱に捨てたことが事故につながる遠因となっていることを匂わせてはいますが、ドラマではそれを感じないのです。
原作を読んだ人はその表情の意味が解るのですが、ドラマだけ見た人はきっと解らずスルーしてしまったことでしょう。
でも、事故の本当の原因はそこでもないなと思います。
義父が入院している病院へ光恵が毎日見舞いに来ないのを義母の路子が不満に思い聡に告げ口をします。
光恵が「2歳の子供を連れて毎日お見舞いに行くのはとても大変で出来ないわ」と聡に対し言ったのに、聡は「自分の親でもそう言って見舞いに行かないのか?」
と光恵を責める場面があります。
これで、光恵と息子は病院に義父を見舞った帰りに事故に会うのです。
聡はここに責任を感じていません。
どう考えてもすこし聡の行動は自分の責任を回避しているとしか思えないのです。
それからもう一人、原作では事故後、息子翔太は救急車で病院へ搬送されるのですが、道が渋滞していて受け入れてくれた病院への到着が遅れるということがあります。
その原因は、自宅の車庫へ車を入れるのが苦手で上手くゆかず、パニックになって車を路上に放置してしまう女性がいます。
ドラマでは登場させていないのですが残念です。
聡の追及に怒りを爆発させたのはこの女性だからです。
判り易い身勝手人間の象徴なのにドラマでは登場していなかったのは惜しいと感じましたね。
それからドラマでは原作にあった、
・飼い主としてその糞を片づける義務を怠った定年退職者
・街路樹の伐採に反対し、造園業者の樹の検査を妨害した主婦
への聡の追及がなかったのも残念でした。
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まとめ
ドラマの内容そのものよりも出演者の演技に惹きつけられるものを感じました。
市役所の窓口で聡に追及されて嘘の言い訳をしながら表情を強張らせ、最後は市民の苦情に対する本音を吐露してしまう道路管理課の職員・小林麟太郎を演じた芦澤興人さんの演技は秀逸でした。
街路樹が倒れた原因が、自分が片づけなかった犬のフンにあることを想像もせず、市役所の怠慢に憤る定年退職者・三隅幸造役の田山涼成さんも憎らしいと思えるほどの見事な演技でした。
そして、極端な潔癖症で悩む造園業者の従業員・足達道洋を演じた萩原聖人さんの演技には、聡に背景にいた人々の責任を追及させる動機を与えるもので謝罪のシーンは迫真の演技だったのです。
また、井上真央さんの演技も素晴らしかったです。
演技が非常に上手い為、事故にあうシーンはリアルすぎて辛いものがありました。
一気にドラマの中に惹き込む演技力は圧巻です。期待どおり、いや期待以上の演技を見せてくれました。
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ドラマ「乱反射」の感想は、原作を見ていると物足りないというのが正直なところですが、役者の演技が素晴らしい作品でした。